ちょっと想像してみて欲しいんですが、

“宝の地図”を発見して、そこへ行く手段とあり余る時間があるとしたら、あなたならいつ旅立ちますか?そこに行けばあなたの人生で最も叶えたいことが叶うという、全てをかけて行く価値のある“お宝”です。

これを読んですぐに旅支度を始めた人は流石にいないでしょうが、私がコーチングの講座で同じことを問われた時は、実際には少し先の予定が気になったり、仕事はどうするのか、家族のことは…、明日のペットの餌は…と、そもそも人生で叶えたいことも”よくわからない”という理由で、とりあえず先延ばしにするか、想像すらもやめてしまっていました。

私たちは日常の中で、この”わからない”というのが原因で、キャリアや人間関係で頭を抱えることがよくあると思います。例えば、自分が大切にしている価値観があるとして、成し遂げたいものがはっきりしていれば、少なくとも人生の大まかな進路の舵取りには迷わなくなり、もしかすると「今すぐにでも旅立とう」と決断するかもしれません。

多様な生き方や働き方がSNS等の普及で見えるようになった世の中では、つい他人と比較して自分自身の在り方に自信を持てなくなることもあります。私たちがそうなのですから、きっと子供たちにはなおさら、ますます多様化する社会に適応して自分自身の心の声で物事を判断していく能力が必要になるとも考えます。

本日は、主に進路やキャリア選択に悩んでいる子供を「どうサポートすれば良いか」という問いを立てて、お父さん、お母さん、その他教育者向けに、対話によって相手の主体的な行動を促す”コーチング”を参考に、親子のコミュニケーションの在り方について考察します。子供たちの主体的な”Want”を引き出すためのヒントとなれば幸いです。

「答えは相手の中にある」

早速、これが結論になるのですが、「この先どうなりたいか」というのはその人自身のことですから、例え親であっても完璧に子供のことを理解している人はいないはずなんです。当たり前のようですが、ここでは必ずしもオトナが答えを持っていなくてもいい、ということを述べておきます。私は就職活動の時期に父親に職業選択の相談をしたことがありますが、見事に父親の人生観を語ってもらったのをいまだに覚えています。当時の私の心境としては、「父さんの時代と今は違うんだけどな〜」と斜に構えて聞いていました。もちろん自分の生き方からヒントを得てもらおうということに愛情の大小はないのでしょうが。大切なことは、”Want”というのは答えを持つのは唯一相手(子供)であって、私たちにできる最大の努力は、一緒に答えを探す旅に出るということです。

では、どのようにして相手の”Want”を探求していけばよいのでしょうか。この記事では、コーチング的コミュニケーションの取り方を2つ取り上げます。

1. “わかること”に意識を向ける

2. 「ガンバレ」のかわりに夢についてとことん話す

順に見ていきます。

“わかること”に意識を向ける

「わからないならわかればいい」

というのは、私がまだ銀行員だった頃、社外で半年間のコーチング講座を受講していた時の師匠の言葉です。当時私は入行8年目で、本社の営業推進リーダーを任されていた時期に、やる気のない部下をどう対処すれば良いかわからず、もっとチームの指揮を高めるようにと上司からは叱られ毎日イライラしていました。そのままを師匠であるコーチに相談したのですが、コーチからは「部下との向き合い方がわからないんだね。じゃあ逆に今わかっていることはなに?」と、質問を受けたんです。「わかっていること?」と、キョトンとした私にコーチが続けて様々な切り口から”わかっていること”について探るヒントをくれます。

「以前に何か他人にアドバイスをしてうまくやる気を引き出せた経験はある?」

「その部下はあなたのことをどんな上司だと感じていると思う?」

といった具合に。こうして”今わかっていること”について視点を変えながら並べていく内に、不思議と自分自身の「プライベートの話を聞いても苦でない性格」や「イライラしてる状態が一番嫌いなこと」や、「なんでも話しやすい兄貴分のように思われたい」のように、自分が得意な領域やどんな自分が心地良いかといった様々な発見がありました。これを続けていく内に、あるところで「よしっ、これだ!」と目の前がパッと明るくなったように視界が開けて、”今自分ができること”に意識を向けて前に進めるようになったのです。

私の学びは、将来の目標を掲げたり、目の前の課題をクリアするときには、「わからない」という言葉を使うとその先は思考停止になってしまうこと、そして過去の経験から未来への素材を発見できるということです。私は今現在、コーチとして「やりたいことがわからない」というような趣旨の、キャリアに関する相談を受けることが少なくありません。多くの場合は、「自分にはなにもない」と思ってしまっている”思い込み”が前提にあります。

子供が「わからない」なら「今わかるもの」、「ない」のなら「今あるもの」へ、意識をずらすようなコミュニケーションを図って、焦らず、じっくり、相手が何か発見するまで一緒に探求しましょう。答えは必ず相手の中にあります。そうすれば、きっと子供たちはオトナを思考の内側に迎え入れて、大切なパートナーとして、あるいは人生の伴奏者として認めていけるようになります。

「ガンバレ」のかわりに夢についてとことん話す

私自身が感じている主に現代の会社員の悩みに多いものとして、”働く意味“といった、これまで曖昧にしていたものが急に必要になってきたような時代の流れを感じ、急に焦りを感じるということがあります。私は「ガンバレば努力は報われる、とにかく目の前のことをガンバレ」と言われて育ちました。学生時代のサッカーでは、真夏の炎天下の中で合宿の走り込みがあり、意識が朦朧とする中でも「諦めずにガンバレ」とだけ言われて、「意味わかんねー!」とブチ切れたこともありました(今振り返るとこういったある意味根性教育もすごくいい経験だと感じてはいるのですが)。

一昔前はただ頑張っていれば良かったんですが、変化の激しい現代では成功法というのは通用しなくなり、多様な価値観に触れた若者はより”意味”を求めています。とある企業の高卒社員2年目研修に講師として登壇した際には、「目標を達成した状態がイメージできるか」というアンケートを取り、32名中8割強の受講生が「No」の回答でした。研修を行う前提課題として「主体性を引き出す」といった内容の趣旨だったのですが、これでは主体的に働くというのは難しそうですね。コーチングの世界では、主体性を引き出すために感情に目を向け、次のような質問を繰り返します。

「その夢を達成できたらどんないいことが待ち受けている?」

「どんな景色が見えて、周りからどんな声が聞こえる?」

「それを達成したら次はなにができるようになると思う?」

このように、ひたすらに夢について話をしていると、具体的なイメージが湧いてきたり、話していて「ちょっと違うな」というような言葉と感情のギャップの発見があったりもします。必ずしも明確な夢がなくてはならないわけではないと思いますが、いずれにしても、自分からその答えを見つけようと意識が集まることで身体の内側からやる気が漲ってくるものです。もし、魅力的な意味が見つかれば、どんな困難にも立ち向かう勇気とパワーが持てるかもしれませんね。「こんな炎天下でも走り込みに耐えることができたら、どんな相手にも絶対に走り負けしない。相手がへばったところをごぼう抜きしてハットトリックしたら最高に気持ちいい!」といった具合に。是非これからは、「ガンバレ」のかわりに子供たちの夢についてたくさんの質問を用意して、とことん話してみてくださいね。心の底から突き動かすような動機が見つかるかもしれません。

終わりに

いかがでしたでしょうか。本日は、「子供の進路やキャリアの悩みに対して、親ができること」というテーマを挙げて、コーチング的コミュニケーションの取り方についてご紹介しました。これが正しいということではなく、親子のコミュニケーションの在り方の1つとしてご参考になれば幸いです。

今後も私自身がコーチングを鍛錬し続け、さらに成長をしながら記事を読んでいただける方々と学びを共有できればと思います。

それではまた。